約束
闇の中を月と星の明かりだけを頼りに約束の場所へ向かう。
昔なら暗闇が恐ろしくて歩くことも出来なかっただろう。
でも今は違う。
そこに辿り着かなければ失ってしまう。
そんな思いが前へ進む力を生み出している。
早く行かなければ。
不安定な足下にとらわれながらも走り出す。
全ては彼を信じて。
木々をかきわけ抜けた先にある一本の大木。
今の季節は美しい花をその枝いっぱいに咲かせている。
だが今夜吹く風は強い。
せっかく咲かせた花をどんどん散らせていった。
木の下には白い花びらがいくつも降り積もる。
それを振り払うことなくキールは木の根に座り込む。
そしてただ空から降ってくる美しい現象に見とれていた。
「・・・約束通り来ましたわ。」
小さくもはっきりとした声に導かれるように顔を向ける。
そこには息を切らしながらもじっと見つめる少女がいた。
その姿は淡い月の光に照らされて幻想的にも見える。
「・・・夢か・・・幻か・・・。」
つぶやいた言葉に反応するように彼女は首を振った。
「夢でも幻でもありませんわ・・・キール。」
自分の名前を呼ばれてもまだ信じることが出来ない。
本来この場所にいるべきではない人が目の前にいる。
だから思わず自嘲的な笑みを浮かべてしまう。
花びらの絨毯の上を歩くようにして彼女はゆっくりと近づく。
そして手が届きそうな所まで辿り着くと汚れることを気にすることなく同じように座り込んだ。
しばらく二人は見つめ合ったまま何も話そうとはしない。
その間も花びらは静かに空から舞い降りる。
ようやく思い切ったようにキールは手を伸ばし彼女の頬に触れた。
指先から伝わる柔らかい感触は現実のものだと思い知らされる。
「姫・・・。」
なんと言っていいのかわからない。
ここまで呼び出したものの、いざとなるとどうすればいいのかわからなくなってしまった。
「どうしてここにいるのですか・・・あなたは。」
聞かずにはいられない。
ディアーナは頬に触れるキールの手を握り答える。
「キールと約束したからですわ。今夜ここで会いましょうと。」
何の迷いもなくきっぱりと言い切る。
喜ばしいことなのに口から出る言葉は違う。
「・・・わかっているのですか・・・ここにいる意味を。」
「ええ。」
微笑みを浮かべたままキールを熱く見つめる。
一国の姫が夜中に人目を忍んで男と密会していたとわかればその罪は重い。
それはディアーナも十分にわかっているはずなのに、彼女はキールを選んだ。
どんな罪も受ける覚悟は出来ている。
だからこそキールは怖かった。
自分のためにここまでさせてしまうのかという重大さに気づいて。
でも確かめたかった。
だから自分は愚かなのだ。
「キール?」
黙り込むキールを心配してディアーナはそっとつぶやいた。
その瞳にはもはやキールしか映ってはいない。
そんなディアーナが愛おしくて仕方がない。
キールはそっとディアーナを引き寄せると包み込むように抱きしめた。
そして離さないように強く力を入れる。
「もう後悔しても遅いんですよ。」
念を入れた言い方にディアーナは思わず笑ってしまう。
「大丈夫。きっと上手くいく、そんな予感がしますもの。」
「予感・・・って、楽天的・・・。」
今度はキールが困ったように笑う。
するとディアーナはちょっと頬を膨らませた。
「前向きと言って下さいな。」
「はいはい・・・。」
想いが人を強くさせる。
そんな言葉が何故か心に浮かび上がる。
だから今はもう怖くはない。
キールは再びディアーナを強く抱きしめる。
ディアーナもそれに答えるようにキールを抱きしめた。
風が吹くたびに花びらが風と共に舞い二人の頭上に降り注ぐ。
そのひとときの美しさを二人は一緒に眺める。
約束通りずっと。
あやのかおり様のサイト、「とにもかくにも」のきり番1234を踏んで頂いた創作です。
最近私的に点数上がりぎみのキルディアです(^^;
しっとりした感じで、相思相愛な二人がとってもイイ感じです〜。
キール片想い好きから、ふらっと相思相愛派へとなびいてしまったお話です。(笑)
壁紙勝手に変えてスミマセン…。(汗)
かおり様、本当にありがとうございました〜♪